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浦和地方裁判所 昭和23年(行)13号 判決 1949年5月17日

主文

別紙目録記載(4)(8)(9)(19)(25)の五筆を除きその余の土地に関する原告の訴を却下する。

前項に掲げた五筆の土地に関する原告の請求はこれを棄却する。

参加人の参加申立はこれを却下する。

訴訟費用中参加によつて生じた部分は参加人の負担とし、その余は原告の負担とする。

事実

原告は適式の呼出を受けたのに拘らず、本件の最初になすべき口頭弁論期日に出頭しないので、当裁判所は原告の提出した訴状に記載された事項はこれを陳述したものと看做し、出頭した被告指定代表者に弁論を命じた。

第一、本件訴状に記載せられている原告の請求の趣旨及び原因は次の通りである。

(一)  請求の趣旨

被告は別紙目録記載の農地について、農地法に基く買収価格として田については一段歩金三万円宛、畑については一段歩金二万五千円宛の割合を以て買収しなければならない。訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求める。

(二)  請求の原因

別紙目録記載の農地は原告の所有であつたが、埼玉県比企郡福田村農地委員会は右農地外田畑合計約二十二町歩を農地法に基いて田一段歩平均七百五十円宛、畑一段歩平均三百五十円宛と謂ふ現在他の物価に比較して殆んど無償没収に近い価格を以て買収を決定した。そこで原告は右農地委員会並びに埼玉県農地委員会に対し夫々自作農創設特別措置法(以下自創法と略称する)による異議又は訴願の申立をしたが、いづれも却下となり、埼玉県知事から昭和二十二年七月二日附書面を以て原告に対し本件農地に関する買収決定の通知があつた。

現在農地改革が国策としてとられているのだから原告としても農地改革法令に基いて農地を買収せられることはやむを得ないと考えるのであるが、右のように低廉な対価によつて買収せられることは憲法に言う正当の補償なしに財産権を侵されるものであり、地主にばかりこのような極端な犠牲を強いて他の者には何の不利益をも与えないのは憲法の保証する国民の経済的平等を破るものであり更に幸福追及に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り立法その他の国政の上で最大の尊重を必要とする旨の憲法の規定に違反するから右対価の決定は違法であると謂はねばならない。農地を買収された国民は憲法第二十九条による正当な補償の支払を求める権利を与えられて居り、そして現在の諸物価に比較するときは、今回買収の対象となつた原告所有の農地の対価は田について一段歩金三万円宛、畑については一段歩金二万五千円宛が相当と考えるので、茲に原告は被告国に対し請求の趣旨記載の如き判決を求めるためこの訴提起に及んだ次第である。

第二、被告指定代表者の陳述は次の通りである。

(一)  本案前の陳述

(イ)  原告主張の別紙目録記載の農地中(4)(8)(9)(19)(25)の五筆を除いたその他の農地に関する原告の訴はこれを却下すとの判決を求める。

(ロ)  その理由

埼玉県知事は昭和二十三年三月十二日原告に対し原告所有の本件農地に対する買収令書を交付したところ、原告はこれに対し本訴において買収価格の更正を請求するに至つたのであるが、本訴は同年十一月二十七日に至つてはじめて提起せられたもので自創法第十四条第一項但書の出訴期間を経過してゐるから本訴はこの点において不適法と謂はねばならない。

(二)  本案に対する答弁

(イ)  原告の請求はこれを棄却するとの判決を求める。

(ロ)  原告の主張事実中別紙目録記載の農地が原告の所有であつたこと、原告主張の農地委員会が本件農地につき、夫々買収計画を定めその対価が別紙目録記載の通りであつたこと、及び埼玉県知事が原告主張の日を買収の時期として原告に対し買収令書を交付したことはいづれもこれを認めるが、その他の事実はこれを否認する。

尤も原告主張の別紙目録記載の農地中(4)大字羽尾字東平一六八二番の面積二畝(外畦畔四歩)の、(8)大字羽尾字東平一七三六とあるは一七三六の一の、面積一畝四歩とあるは二一歩の、賃貸価格二円四銭とあるは一円二六銭の、対価八一円六〇銭とあるは五〇円四〇銭の(尚摘要として他分筆による道路敷地である旨の記載あり)(9)大字羽尾字東平一七五二番の面積四畝一歩とあるは三畝一三歩の、賃貸価格七円二六銭とあるは六円一八銭の、対価二九〇円四〇銭とあるは二四七円二〇銭の、(19)大字羽尾字水深二八六七番の面積六段三畝二六歩とあるは六段三畝二六歩(内冷水堀一九歩)の、(20)大字羽尾字水深二八七七番の対価一八一円四〇銭とあるは一八二円四〇銭の、(22)大字羽尾字川田一〇一〇番の賃貸価格五円五六銭とあるは五円五七銭の、(25)大字羽尾字吉田二一八九の一番面積八畝二六歩とあるは八畝二六歩(内冷水堀二歩)の、(33)大字羽尾字谷の前九六一番の対価二六〇円とあるは、二六〇円八〇銭のいづれも誤りであるが、右の誤記の内目録記載の(4)(8)(9)(19)(25)の記載は被告において原本から買収令書に転写する際書き違へたものであつたから、被告は昭和二十四年二月十七日原告に曩に交付した買収令書を提出させ同日これを前記の様に訂正した。

原告は本訴において買収対価の更正を求めて居る。しかし自創法による農地の買収対価は当該農地について特別の事情が存するときは、特別の対価を定めることが出来るが、そうでない場合は一般に農地の賃貸価格に田にあつては四十、畑にあつては四十八を乗じて得た額の範囲内において定めるべきものとされて居るのであり、然も本件農地については特別の事情は存しないのであるから、本件農地の賃貸価格に自創法所定の右倍率を乗じて得た額の範囲内で定められた前示の対価は適正なものであり、これを非難する原告の主張は失当である。

又自創法は農地を買収してこれを耕作者に売渡しその地位を安定せしめ、その労働の成果を公正に享受せしめるため急速且広汎に自作農を創設し、わが国農業生産力の発展と農村における民主的傾向の促進をはかることを目的とするのであり、従つて自創法による農地買収は公共の福祉のためになされたものであるから、憲法の保障する国民の幸福追求に対する権利はこの限度において制限を受けるのは当然と謂ふべく、本件農地買収によりたとえ原告の個人的主観的立場において犠牲を強いられる結果となるもこれを以て直ちに憲法に違反するものと謂うことは出来ない。

右いづれの点からするも原告の本訴請求はその理由がないから棄却せらるべきである。

第三、参加人は次の通り陳述した。

(一)  参加の理由

参加人は原告の長男であつて原告と同居してゐるものであるが、原告は高齢のため参加人が世帯主として家政一切を扱つてゐる状態である。原告は昭和二十四年一月十三日参加人に対し自創法によつて買収された本件農地の対価及び報償金に対する請求権等買収処分により取得した一切の権利を譲渡し同日被告に対し右債権譲渡の通知をした。

仍て参加人は被告に対する本件農地の対価及び報償金の請求権者として請求の趣旨記載の判決を求めるためこの参加申立に及んだ次第である。尚参加人が被告に対し請求の趣旨記載の如き買収対価の変更を求めるのは、対価の増額請求を規定する自創法第十四条によるものではなく、憲法第二十九条により正当な補償としてこれを請求する次第である。

(二)  被告の答弁に対する陳述

別紙目録記載の農地(4)(8)(9)(19)(25)につき被告主張の如く買収令書の訂正があつたこと、(22)(25)(33)の農地については目録自体に被告主張の如き誤記あることはいづれもこれを認める。

第四、被告指定代表者は参加人の本件訴訟参加に異議があると述べその理由として農地買収の対価の更正を求める権利は買収された農地の従前の所有者だけに与えられた一身専属的権利であるから、その譲渡は無効であり、従て右の如き権利の譲受を前提とする本件訴訟参加は不適法であると述べた。

<省略>

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